野球は100年以上の歴史があるスポーツですが、近代野球において統計学的に選手を評価するセイバーメトリクスという手法が発展し始めました。
そこで本記事ではセイバーメトリクスに関わる評価指標30選を一覧形式で基本編と応用編に分けてまとめてみました。
特に本塁打数や打点数といった積み上げ系の指標ではなく、打率やOPS、QS率、K/BBといったポテンシャル系(確率系)の指標を中心にまとめています。
✔︎本記事の内容
- 基本編(7の指標)
- 応用編・野手(10の指標)
- 応用編・投手(10の指標)
- 応用編・その他(3の指標)
興味のある評価指標に下の目次から飛ぶことができます。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
まずは基本編から
まずは野球の基本的な評価指標についてまとめました。
首位打者や最高出塁率、最高勝率、最優秀防御率といったタイトルに関わる重要な指標ばかりです。
指標名 | 対象 | 意味 |
---|---|---|
打率(BA) | 打 | 安打を打つ割合 |
出塁率(OBA) | 打 | 出塁する割合 |
長打率(SLG) | 打 | 1打席あたりの塁打数 |
本塁打率(AB/HR) | 打 | 1HRを打つのに必要な打数 |
勝率(W-L%) | 投 | 勝利投手になる割合 |
防御率(ERA) | 投 | 1試合あたりの自責点 |
奪三振率(K/9) | 投 | 1試合あたりの奪三振数 |
打率(BA)
$$\frac{安打}{打数}$$
打者を評価する指標の中で最も基本的な指標が打率(Batting Average)です。
打数の中でヒットを打つ確率を意味しています。
例えば打率が.300の選手は30%の確率でヒットを打つことができます。
そしてシーズン打率が1位の選手は首位打者というタイトルを獲得できます。
出塁率(OBA)
$$\frac{安打+四死球}{打数+四死球+犠飛}$$
出塁率(On-Base Average)はその打者が打撃機会中に出塁できる確率を意味しています。
例えば出塁率が.400の選手は40%の確率で出塁することができます。
ちなみに送りバントが成功した場合は分母にも分子にも反映されないので出塁はできていませんが出塁率は変わりません。
長打率(SLG)
$$\frac{塁打数}{打数}$$
長打率(Slugging percentage)は1打席あたりどれくらいの塁打数が期待できるかを意味しています。
例えば長打率が1.400の場合は1打席あたり1.4塁まで進むことができます。
長打率という名前ですが長打を打つ確率ではないので注意しましょう。
本塁打率(AB/HR)
$$\frac{打数}{本塁打}$$
本塁打率(At Bats per Home Run)は1本のホームランを打つのに何打数必要かを示した指標です。
例えば本塁打率が10.00の場合は、その打者は1ホームランを打つのに10打数が必要ということになります。
勝率(W-L%)
$$\frac{勝利}{勝利+敗戦}$$
勝率は勝敗がついた試合に対する勝利の割合を意味しています。
例えば勝率が.600の場合は勝敗がつく試合で60%の確率で勝利することができます。
防御率(ERA)
$$\frac{自責点×9}{投球回}$$
防御率(Earned Run Average)はその投手が1試合(9イニング)を投げた時に相手を何点に抑えることができるかを意味しています。
例えば防御率が3.00の場合はその投手が1試合を投げたら3自責点に抑えることができます。
奪三振率(K/9)
$$\frac{奪三振×9}{投球回}$$
奪三振率(Strikeouts per 9 innings)は1試合(9イニング)平均の奪三振数を意味しています。
例えば奪三振率が12.00の場合はその投手は1試合あたり12個の三振を奪うことが見込めます。
【応用編】野手の打撃・守備・走塁指標
ここからは基本編から一歩踏み出して応用編の評価指標をまとめました。
まずは野手の打撃能力・守備能力・走塁能力を評価できる指標からです。
指標名 | 対象 | 意味 |
---|---|---|
OPS | 打 | 出塁率+長打率 |
ISO(IsoP) | 打 | 打者本来の長打力 |
wOBA | 打 | 1打席あたりの得点増加への貢献度 |
RC | 打 | 創り出した総得点数 |
RC27 | 打 | その選手だけで打線を組んだ時の1試合の得点期待値 |
P/PA | 打 | 1打席あたりの被投球数 |
UZR | 守 | 平均的な選手と比べてどれだけ失点を防いだか |
DRS | 守 | 平均的な選手と比べてどれだけ失点を防いだか |
wSB | 走 | 盗塁による得点貢献度 |
UBR | 走 | 盗塁以外の走塁による得点貢献度 |
OPS
$$出塁率+長打率$$
OPS(On Plus Slugging)は出塁する割合と塁打数の期待値を単純に足した打撃指標です。
OPSが.900を超えたら一流の打者、1.000を超えたらリーグトップクラスの打者と言われています。
計算式がシンプルにもかかわらず打者の得点能力を最も反映している指標ということで多くの場面で利用されています。
ISO(IsoP)
$$長打率-打率$$
ISO(IsoP・Isolated Power)は打者本来の長打率を意味しており、長打率から打率を引いた数字になります。
長打率の計算では単打も計算式に含まれてしまいますが、ISOでは単打を除いた二塁打、三塁打、本塁打で計算されるので純粋な長打力を測ることができます。
✔︎長打率が同じ2打者のISOの差
打撃成績 | 打率 | 長打率 | ISO |
---|---|---|---|
100打数40安打 | .400 | .400 | .000 |
100打数10本塁打 | .100 | .400 | .300 |
上記の2選手は全くプレースタイルが違うにもかかわらず長打率が同じですが、ISOに長打力の差が反映されています。
wOBA
wOBA(Weighted On-Base Average)は1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献できるかを示した指標です。
四球、単打、二塁打、三塁打、本塁打などに統計学的に妥当とされる得点価値の係数を与えることで計算されます。
例えばwOBAが.400の場合は1打席あたり0.4点の得点増加に貢献できます。
RC
RC(Run Created)はその打者がそのシーズンに創出した得点数の合計を意味しています。
例えばRCが100.0の打者はそのシーズンに100得点を一人で生み出したという計算になります。
そしてそのチームの打者全員のRCを合計するとチームの総得点とほぼ一致します。
RC27
RC27(Runs Created per 27 outs)はその打者が1試合打席に立ち続けて27個のアウトを取られるまでに何得点できるかを示します。
例えばRC27が8.00の選手はその打者だけが打席に立ち続けた場合の得点期待値が8点であることを意味しています。
一般的に6.00以上なら一流打者、9.00以上ならMVPクラスの選手です。
P/PA
P/PA(Pitch per Plate Appearances)は1打席で何球相手投手に投げさせることができるかを示しています。
例えばP/PAが4.00の選手は1打席あたり4球相手投手に投げさせることができます。
一般的にP/PAが4.00を超えたら一流の粘り打ち打者と考えられています。
UZR
UZR(Ultimate Zone Rating)は同じポジションの平均的な選手と比較してどれだけ失点を防ぐことができるかを示す守備指標です。
例えばUZRが10.0の選手は同じ守備位置の平均的な選手と比較して10点を防いだことを意味しています。
一般的にUZRが10以上なら優秀、15を超えたらゴールデングラブ賞級であると言われています。
DRS
DRS(Defensive Runs Saved)は同じポジションの平均的な選手と比較してどれだけ失点を防ぐことができるかを示す守備指標です。
UZRと同じく守備指標ですが打球難易度の蓄積されるデータや分割する守備ゾーン数に違いがあります。
UZRと同じく10以上なら優秀、15を超えたらゴールデングラブ賞級であると言われています。
wSB
wSB(Weighted Stolen Base Runs)は平均的な選手と比較して盗塁によってどれだけ得点増加に貢献したかを示す走塁指標です。
例えばwSBが3.0である選手は平均的な選手と比較して盗塁によって3点多く貢献したことを意味しています。
一般的にwSBが2.0以上なら一流選手であると言われています。
UBR
UBR(Ultimate Base Running)は平均的な選手と比較して盗塁以外によってどれだけ得点増加に貢献したかを示しています。
単打で二塁から本塁まで帰ってきたり浅い犠牲フライで生還したりする能力の高さですね。
例えばUBRが2.5である選手は平均的な選手と比較して盗塁以外によって2.5点多く貢献したことを意味しています。
一般的にUBRが2.0以上なら一流選手であると言われています。
【応用編】投手の投球指標
指標名 | 対象 | 意味 |
---|---|---|
QS率 | 投 | 先発投手がQSを達成する割合 |
WHIP | 投 | 1投球回あたりに出す走者数 |
与四球率(BB/9) | 投 | 1試合あたりの与四球率 |
K/BB | 投 | 1四球あたりの奪三振数 |
K% | 投 | 1打席あたりの奪三振数 |
BB% | 投 | 1打席あたりの与四球数 |
LOB% | 投 | 走者の残塁率 |
RSAA | 投 | 平均的な投手と比べてどれだけ失点を防いだか |
BABIP | 投 | フィールド内に飛んだ打球が安打になる割合 |
FIP | 投 | 守備から独立した防御率 |
QS率
$$\frac{QS}{先発登板回数}×100$$
QS率(Quality Start %)はクオリティスタート(先発投手が6イニング以上を3自責点以内に抑えること)をする割合を示します。
先発投手の安定感を示す投球指標ですね。
ちなみに2013年にシーズン24連勝を達成した田中将大投手のQS率は100%でした。
WHIP
$$\frac{被安打+与四球}{投球回}$$
WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)は1投球回あたりに出す走者数を示しています。
例えばWHIPが1.30の投手は1イニングあたり1.3人のランナーを出すということを意味しています。
一般的にWHIP1.00以下が一流投手の目安になります。
与四球率(BB/9)
$$\frac{与四球×9}{投球回}$$
与四球率(Base on Balls per 9 Innings)は1試合(9イニング)に与える四球数を示します。
例えば与四球率が3.5の投手は1試合で3.5個のフォアボールを与えます。
成績の目安としては与四球率が2.0を下回れば非常に優秀なコントロールを持つと言われます。
K/BB
$$\frac{奪三振}{与四球}$$
K/BB(Strikeout to Walk ratio)は1個の四球を与えるまでに何個の三振を奪えるかを意味しています。
例えばK/BBが5.00である投手は1個の四球を与えるまでに5つの三振を奪うことができます。
一般的にK/BBが5.00を超えると優秀な投手と言われます。
NPBで1500イニング以上投げた投手の中でトップのK/BBを記録したのは上原浩治投手で通算K/BBが6.68でした。
K%
$$\frac{奪三振}{打席}$$
K%(Strikeout %)は1打席あたりの三振を奪う確率を示します。
例えばK%が30%である投手は30%の確率で奪三振を取ることができます。
BB%
$$\frac{与四球}{打席}$$
BB%(Base on Balls %)は1打席あたりの四球を与える確率を示します。
例えばBB%が7.0%である投手は7%の確率で四球を与えます。
LOB%
$$\frac{安打+与四死球-失点}{安打+与四死球-1.4×本塁打}$$
LOB%(Left On Base %)は残塁率を意味し、走者を出してもホームに帰さない粘り強さを示しています。
LOB%が70%以上の投手はピンチに強く、70%を下回る投手はピンチに弱いと考えられています。
RSAA
$$\frac{(リーグ平均失点率-失点率)×投球回}{9}$$
RSAA(Runs Saved Above Average)は平均的な投手と比較してどれだけの失点を防いだかを示す投球指標です。
例えばRSAAが10.00である投手は平均的な投手と比較して10点少なく抑えたことを意味しています。
平均的な投手との比較になるので平均以下の投手はRSAAがマイナスになります。
BABIP
BABIP(Batting Average on Balls In Play)は通称インプレー打率と呼ばれ、フィールド内に飛んだ打球がヒットになる割合を示します。
BABIPが.300の投手はフィールドに打球が飛んだら30%の確率でヒットになることを意味しています。
一般的にフライボールピッチャーはBABIPが低め、グラウンドボールピッチャーはBABIPが高めに出ます。(フライよりもゴロの方がアウトになりにくいため)
FIP
FIP(Fielding Independent Pitching)は守備から独立した投球内容、つまり本塁打・与四死球・奪三振のみで算出した防御率です。
単打やゴロアウトといった野手が関わるイベントはリーグごとの同一の補正値として全投手に付与されます。
例えばFIPが3.00の投手は野手の守備能力に関係なく1試合で3自責点に抑えることができます。
【応用編】総合・チーム・球場の指標
最後に野手指標・投手指標とは異なる評価指標として次の3指標をまとめました。
指標名 | 対象 | 意味 |
---|---|---|
WAR | 総合 | 代替可能選手と比べてどれだけ勝利数を増やしたか |
ピタゴラス勝率 | チーム | 得点と失点から見込まれる勝率 |
パークファクター | 球場 | 得点の入りやすさ、本塁打の出やすさ |
WAR
WAR(Wins Above Replacement)は代替可能選手(一軍半の選手)と比較してどれだけチームの勝利数を増やしたかを示す指標です。
例えばWARが4.0の選手は代替可能選手と比較して4勝分多くチームに貢献したことになります。
WARの目安として4.0以上ならオールスター級、6.0以上ならMVP級の選手であると考えられます。
ピタゴラス勝率
$$\frac{得点^{2}}{得点^{2}+失点^{2}}$$
ピタゴラス勝率はチームの得点数・失点数から統計的に算出した勝率のことです。
実際の勝率と比べてピタゴラス勝率の方が高ければ今後の勝率は上がる、ピタゴラス勝率の方が低ければ今後の勝率は下がる、というように予測するために使われます。
ピタゴラスの定理と数式が似ているためピタゴラス勝率という名称がつきました。
パークファクター
パークファクターは野球場の特性を評価するための指標です。
平均的な球場と比較して何倍イベントが発生しやすいかを示し、特に本塁打パークファクターと得点パークファクターがよく利用されます。
例えば本塁打パークファクターが1.20の場合は平均的な球場と比べて1.2倍多くのホームランが出る球場であることがわかります。